2025年のコンテナ市況は需要の先取りでピークシーズン(7~11月)までは低調に推移します。
また、紅海運航の再開が期待されており、船会社は運賃の下落を食い止めるため対応に追われるでしょう。
この記事では今後のコンテナ市況に関わる以下の内容を解説しています。
- ・コンテナ運賃が下落する2つの要因
- ・運賃急落とガザ停戦の行方を気にかける船会社
- ・コンテナ運賃指数の動向
- ・アメリカ国内の需要は先取り済み
- ・紅海運航の再開で余るのは船とコンテナ
去年に引き続き、アメリカの政策と中東情勢の影響を大きく受ける年になりそうです。
今後の需要予測にも参考になるため、最後までご覧ください。
コンテナ運賃は2つの要因で徐々に下落
2025年前半のコンテナ運賃を左右するのは以下の2つです。
- ・紅海運航の再開
- ・アメリカの関税政策
それぞれ詳しく見ていきましょう。
紅海運航の再開による輸送力過剰
ガザ地区の停戦発効により、紅海の通過が可能となって喜望峰沖を迂回して高止まりしていたコンテナ運賃が下落する(元に戻る)と期待が広がっています。
しかし、船会社は輸送力過剰になることを危惧しています。
1月19日、停戦により紅海で商船を攻撃していたフーシ派も活動縮小、対象をイスラエル船に限定すると発表しました。
本来であれば船会社も喜ぶべき状況です。
ところが、大手船会社のマールスク、ハパグ・ロイド、MSC、CMA-CGMの4社は揃って、安全が確保されるまでは喜望峰沖を迂回するルートで運航すると発表。
ただちに紅海運航を再開しない主な理由は以下の3つです。
- ・停戦期間が6週間であること
- ・航路の安全確保が確実でないこと
- ・海上保険の料金の高さ
これ以上に問題となるのは、すぐに航路を元に戻すと喜望峰の迂回ルート(アジア~欧州)を往復しているコンテナ船が余り、輸送力が過剰となることです。
その結果、運賃が急落することを船会社は危惧しているとされています。
アメリカの関税政策
アメリカ向けの輸送需要は、ピークシーズンまで下降気味で推移するでしょう。
2024年の年末からトランプ大統領の就任に備えて、駆け込み需要で荷物量が増えていたからです。
イギリスの調査会社「ドリューリー(Drewry)」のWCI(世界コンテナ指数)によれば、1月9日にスポット運賃はピークに達し、その後は下落。
例年通りであれば、中国の春節前(1月末)までは荷物量は増えていました。
しかし、その前に需要は低下、1月20日の政権発足に対応した形になっています。
政権発足後は、予想したようにトランプ大統領は関税政策を発表。
先日、アメリカに不法入国したコロンビア人の送還をコロンビア政府が拒否した際の関税は以下のとおり。
- ・コロンビアから輸入される全製品に即時25%の関税
- ・1週間後には関税を50%まで引き上げ
- ・渡航禁止やビザ撤回
これらの報復措置に対して、コロンビアの大統領は受け入れを合意。
現在、関税や制裁措置は“保留”となっています。
このような関税が突如として変わる局面に備えて、アメリカ向けの輸送需要は先取り済みといえるのではないでしょうか。
以上のように、異なった理由でコンテナ輸送の需要が左右される状況であり、需要自体も低調であるため、全体的にコンテナ運賃は下がっていくでしょう。
海上運賃の急落リスクとガザ停戦の行方を気にかける船会社
ガザ停戦で紅海が航行可能となったものの、船会社は方向性を慎重に見極めないといけない状況になっています。
今のまま紅海運航を再開すると、航路が短くなり、多くの船会社では船が余って輸送力過剰となってしまうからです。
そのため、輸送力を適正にするため、船を減らさないといけません。
しかし、喜望峰を迂回するルートを使うようになって一年ほど経ち、船会社は簡単には元の体制に戻せない状況に苦慮しています。
本来は、2023年に海運業界は輸送力過剰に直面すると分析されていました。
理由は、IMO(国際海事機関)が船舶の排ガス規制の対象を既存船にも広げたため、新造船への入れ替えが必要だったからです。
ところが2023年末に紅海で商船が攻撃され、事態が一転。
迂回航路を維持するために多くの船が必要となりました。
実際、2024年にスクラップとして売却されたコンテナ船の数は56隻とされ、2023年に処分された量と比べて半分ほどです。
現状のまま紅海運航を本格再開すると、船が余って運賃が急落するでしょう。
だからといって、不用意に古い船を処分してしまうと、喜望峰の迂回ルートが維持できなくなってしまうわけです。
しかも、現在の停戦は6週間の期間限定であり、恒久的な停戦合意にはなっていません。
場合によっては、6週間経たずに再度戦争状態に突入する可能性もあります。
そうなれば、喜望峰を迂回して運航するしかありません。
船会社は、ガザ停戦の経過と紅海の安全を確認しつつ、船を徐々に減らして輸送力過剰を回避できる体制にするはずです。
まとめると、停戦の期間と船会社の事情で紅海が通常航路に戻るには、数カ月先になる可能性が高いです。
もちろん、すべての船会社が同じ対応をするわけではなく、先んじて紅海運航を再開して荷物を確保したいと考えるところも出てくるでしょう。
アメリカ国内の需要は先取り済み+在庫超過
アメリカ向けの需要は先取り済みであり、しばらく輸送量が増えることはないでしょう。
トランプ大統領が関税政策をすることを見込んで在庫調達が済んでいるからです。
加えて、アメリカ国内の小売業者の在庫が過剰になっています。
2025年1月23日、海事の調査会社「シーインテリジェンス(Sea-Intelligence)」は自社サイトでアメリカの小売業の在庫について記事を投稿。
2024年11月で小売業者の在庫が通常額よりも302億ドル(約4兆5812億円)高い水準に達していると説明しています。
この在庫は関税対策になるものの、消費者の購買意欲が減少した場合、小売業者は過剰在庫で苦しむ可能性もあると記述しています。
つまり、アメリカ国内に在庫が十分あるため、しばらくは調達量も抑えられるでしょう。
トランプ大統領の就任によって、アメリカの国内情勢や経済が立ち直り、上向くと希望的観測が先行しています。
しかし、思わぬ結果になった場合、消費の落ち込みと在庫過剰により輸送需要がさらに伸びにくくなるかもしれません。
まとめると、現在のアメリカ国内は、駆け込み需要は取り込み済みであるため、ピークシーズン(7~11月)までは輸送需要の高まりは期待できないでしょう。
紅海航行の再開で余るのは船とコンテナ
紅海運航が再開されると過剰になるのは船だけでなく、海上コンテナも余ります。
前述したように、喜望峰を迂回する航路を維持するには、多数の船が必要でした。
同時に、輸送に使う海上コンテナも大量に必要とされました。
輸送日数が10日間ほど伸びるためです。
このため、2024年はコンテナ製造が急ピッチで行われ、中国企業に予約が殺到していました。
しかし、紅海運航が本格的に再開されると、日数が短縮され、旧式船が余るのと同様にコンテナも過剰気味になります。
コンテナ運賃に影響はほとんどないものの、払い下げられた中古コンテナが市場に出てくるでしょう。
【2025年前半】需要の低下と輸送力過剰でコンテナ市況は低調の見通し|まとめ
2025年のコンテナ市況は低調で推移する見込みです。
IMFが発表した世界経済見通し(実質GDP成長率)では、ユーロ圏が1.0%、日本が1.1%、アメリカは2.7%と先進国の成長率は低いと予想されています。
2月現在、スポット運賃は中国の春節の影響もあって下落、休暇が明けても需要が大幅に伸びるとは考えにくい状況となっています。
先進国の中で成長率が高いアメリカも需要は先取りされており、しばらくは荷物量が増えることはないでしょう。
一方で、ガザ停戦で紅海の通過が可能となり、迂回航路で高くなっていた運賃が元の水準に戻ることが期待されています。
ただし、船会社は紅海航行の再開をする前に余剰となる船の削減が必要です。
また、6週間のガザ停戦が恒久的なものにつながるか不透明であるため、大手の船会社は、喜望峰沖を経由する航路を数ヵ月続けるでしょう。
そのため、すぐに元の状態に戻るというわけではありません。
まとめると、今年のピークシーズンまでは輸送需要は増えにくく、船が余り気味になるためコンテナ運賃は下落していくでしょう。
・参考サイト
- ・フーシ派、紅海での米英船に対する攻撃を停止-ガザ停戦発効で - Bloomberg
- ・米国とコロンビア、不法入国者の送還受け入れで合意、追加関税を回避(米国、コロンビア) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ
- ・2023年から世界の大型既存外航船にCO2排出規制開始
- ・Available extra box ship tonnage even harder to find this year - The Loadstar
- ・Sea-Intelligence - Retail inventories continue sharp growth
- ・World Container Index - 06 Feb
- ・Sympathy for the shipping executive
- ・世界経済見通し